増渕任一朗作品リサイタル II にあたって
古典が甦る日
        (株)邦楽の友社 社長 守谷幸則

  古典を今の時代に甦らせるといっても、そう簡単なことではない。
それは古い時代と新しい時代との何百年にもわたる時間の層の厚さが、あるいは断層が、日本人の記憶をおぼろにし、古い時代の景色を時の彼方に追いやってしまっているせいだが、喪失した記憶を紡ぐという作業があれば、日本人総ての心の中に再び現出してくるものでもある。
ただその作業がきわめて混沌としている。
単純に考えれば現代の舞台で古典を演奏することでいい。ただこの場合現代人が、遠くに霞んでしまった古人を、いにしえの景色を、彼らの目線の中に捉えなおさなければならないだろう。
簡単にいえば聴き手に古典を理解してもらわなければならないということである。いままで邦楽に携わる人すべてが努力してきたことであるし、これからも努力していくことであるのだが、啓蒙はなかなか思うようにいかない。
増渕任一朗さんは、その作業を新しい作品を創ることによって行ってきた人だと言えよう。その作品は現代の古典というべきものである。
現代人の視線で古人の心象風景を見つめて作品を完成させていく。
今日のいくつかのアンサンブルの作品が、まさにそれである。
それは増渕任一朗さんが古典の正しい継承者であり、現代に甦る古典の案内人であることを証明している。
新しい感性が古い時代を甦らす。
今日のリサイタルで、増渕任一朗さんの指導を受けてきた、若いプロの演奏家たちが、それを認識させてくれるだろう。
古典の伝承と新しい視点、後継者の育成と、正統な筋を立てて歩んできた増渕任一朗さんの前には、これからも永く果てしない道が続く。その道こそ、後から現代人がたどることになる、新たな形なのだということを確信している。
4月から中学校に導入された日本の楽器が、日本人の音楽が、いつまでも幸福であるように、増渕任一朗さんと努めていこう。
古くてもっとも新しいもの、邦楽の未来を確固たるものにするために。

 

 


 フレッシュ・コンサート
 平成14年11月15日(金) 紀尾井小ホール  午後6時開演

《夕》(増渕任一朗作曲)
I箏:鈴木真為
II箏:武藤宏司

 

《春宵》(増渕任一朗作曲)
I箏:山岸妃貞子
II箏:設楽聡子
十七絃:清野さおり
尺八:芦垣一哉

 

 増渕任一朗作品リサイタル II
 平成14年11月15日(金)紀尾井小ホール 7時開演

「糸竹風韻」
I箏:増渕任一朗
II箏:山岸妃貞子
十七絃:大間道敬
尺八:川瀬庸輔、山本真山

 

「花の面影」
歌: 増渕陽子
箏:
増渕任一朗
尺八:三橋貴風

 
リハーサルの撮影です。

「沙羅双誦」
歌: 増渕陽子
I箏・歌:増渕任一朗
II箏:大間道敬
十七絃:山登松和
尺八:三橋貴風、青木彰時

   
   

 

 
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